おいでよ ほうりつがくのもり(基本書レビューblog)

まったり司法試験・予備試験の基本書をレビューします

刑事裁判起案マニュアル

傾向と対策

刑事裁判科目の即日起案&2回試験は,以下のような設問構成であることが多いです。

  • 小問(各設問2~3ページ指定×3~4問)
  • 事実認定問題(10~15ページ指定)

小問を落とすか,事実認定の枚数が極端に少ないと評価は厳しくなるので,小問を早めに処理して,事実認定に時間をかけることが重要です。

小問の対策

小問には大まかに次のパターンがあると思います。

  1. 証明予定事実記載書面・予定主張記載書面を検討させ,争点に関する間接事実の意味合い・重みを書かせる問題
  2. 公判前整理手続において,争点及び証拠の整理を意識した訴訟指揮の内容を書かせる問題
  3. 保釈・接見禁止等の請求を許可するか否か「手続上のあてはめ」を書かせる問題
  4. 純粋な知識問題

うち,4は事前の対策はほぼ不可能かつ配点も少ないので,予習段階での対策は捨てるのが賢明です。講義ノートを復習しておけば2回試験でも失敗はないでしょう。そもそも2回試験で講義でやってない知識問題が出たら誰も解けないので合否や成績に大きく影響しません。

前記1は各間接事実が積極か消極か,推認力の程度はどの程度かを書くだけなので,事実認定問題の知識で十分対処できます。

前記2は難問が多く,現場思考が要求されるため対策が立てづらい問題です。特に,検察官が主張する事実や請求する証拠の必要性を検討する問題が難問ですが,基本的には「検察官が主張する事実は要証事実に関して推認力が低い」パターン,「検察官が請求する証拠から証明しようとする事実は要証事実に関して推認力が低い」パターン,「その事実は他の証拠からでも証明できる」パターンが出題されやすいので,この3つの類型を意識して解くと処理しやすいと思います。高得点を取るコツは,要証事実を把握すること,間接事実の意味合いと重みを分析したらしっかり書くこと,「B・Pに~させる」という裁判官による強制ととられかねない表現は使わず「~という認識をB・Pと共有し,~を促す」という表現で書くこと,です(「させる」はNG!)。

前記3は,司法試験に合格した人なら,手持ちの刑事訴訟法の演習書の接見禁止・保釈部分を復習しておけば書けます。

事実認定問題の対策

事実認定問題はパターン処理で解けます。

  1. 結論を書く(事実認定問題は書いているうちに結論を変えたくなったりしますが,まずは適当に「認められる」「認められない」「一部認められる」といった結論だけ書いて改ページし,結論を変えたくなったら後で二重線を引いて訂正するのが安全です)。
  2. 個々の積極事実につき意味合いと重みを書く。記録の性質にもよるが,枚数指定の半分+1~2枚くらいは書いておくと安全。
  3. 各積極事実を総合評価する。総合評価して要証事実が認められなければここで終わり。総合評価して特段の事情がない限り要証事実が認められそうなら次に進む。
  4. 消極事実の意味合い・重みや,被告人の弁解以外の消極証拠の信用性の有無を書く。
  5. 被告人の弁解の信用性の有無を書く。
  6. 4と5の検討の結果から合理的な疑いをいれず要証事実が認定できる場合は,特段の事情がないので要証事実が認められる。合理的な疑いが生じた場合は,特段の事情があるので要証事実が認められない。
  7. 上記の検討で事実の認定に使った証拠の信用性の有無の理由と,被告人の弁解の信用性の有無の理由を書く。

証拠の信用性の議論をすべて答案の最後に持ってくるテクニックは,多くの教官が推奨するものです。私も,以下の理由からこのテクニックは有用であると思います。

  • 刑事裁判科目においては「事実の意味合い・重み」の記述の配点が高いので(起案の講評の配分から気づくと思います),信用性を厚く書いていくと時間・枚数不足で点を落とす可能性がある。
  • いったん最後まで「事実認定の理由」を書ききることができるので,起案中に時間切れになりそうになっても,末尾に白紙を数枚入れて紐で綴じたうえで起案を続けることができる(事実を認定する都度信用性を検討するスタイルではこれは不可能)。

他の科目

 

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【2回試験・即日起案】司法研修所起案マニュアル

 

 刑事系

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民事系

 

 

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この記事の趣旨とか

司法研修所の起案対策をマニュアル化したものです。

私自身は修習に入る前に起案の対策はしませんでしたが,任官や任検を目指す同期は,先輩から過去問や資料を入手して勉強会をしたり,出身法科大学院の実務教員や法科大学院と繋がりのある裁判官主催の勉強会に出たりしていました。

もちろん,任官任検においては,起案の成績がすべてではなく,司法試験の成績,年齢など様々な要素が絡んでくると思いますが,起案の成績は非常に重要な要素のひとつであることには間違いありません。また,司法試験の成績や年齢とは異なり,司法試験合格後修習開始前に対策することのできる要素です。

しかし,前記のような勉強会の機会のある修習生とない修習生では,起案の知識についても,修習開始前に大きな差が開いてしまいます。しかも,司法研修所の導入修習は,起案の作法について一切教えず,いきなり試験をするため,前記のような機会がなければ,任官任検レースで大きく出遅れてしまいます。ここで出遅れると,次の試験は実務修習中ということになり,配属班によっては数ヶ月以上後になるため,非常に不利です。

そこで,前記のような機会のない修習生がそのような不利を被らないよう,私のできる範囲で起案の技術をマニュアルという形で公表することにしました。内容には不正確なところもあると思いますが,適宜補ってもらえれば幸いです。

なお,この企画は,masoブロさんの記事を一部リスペクトしています。masoブロさんは司法試験・研修所起案関連のブログでは間違いなくトップのクオリティを誇るブログです。残念ながら現在は更新されていませんが,その方法論には普遍的なものがあります。この企画では,masoブロさんをリスペクトし,実用的な記述を心がけつつ,masoブロさん更新停止後に変化した傾向や起案ルールなども盛り込んでいく予定です。

刑事弁護起案マニュアル

傾向と対策

 刑事弁護の即日起案,2回試験の傾向と対策を考えてみます。

 まず,全刑事系科目に共通の傾向として,以下の分野から出題がされやすいように思います。

  • 殺意
  • 共同正犯(特に犯意の認識の有無)
  • 財産犯(特に窃盗,強盗。刑弁では詐欺はあまり出ない)
  • 正当防衛(特に急迫不正の侵害。刑弁で過剰防衛はまず出ない)

 ほかに特別法違反(薬物事犯や廃棄物など)が出ることもありますが,出題との関係では,構成要件の意義等の知識は不要なので,気にしなくてよいでしょう(構成要件の定義がわからなくても,起案上は意思連絡の有無のみが争点になっているなどの配慮があります)。

 以上の頻出類型の犯罪の記録をもとに,刑弁はおおむね次のような形式で出題されます。

  • 公判での証拠調べを想定した弁論(想定弁論)の起案
  • 手続関係の小問(保釈,証拠意見,公判前整理手続全般,尋問への異議等が多い)
  • 冒頭陳述の起案

 以上のうち,2回試験では想定弁論の起案がメインであり,起案の枚数としても全体の9割程度になります。そこで,主に想定弁論を対策していくことになります。

 ちなみに,手続関係の小問は,研修所の講義のノートがあればなんとかなります。

 冒頭陳述(たまに変化球で意見陳述とかも出ますが)の起案は,解答がフリーダムになり採点が困難になるため,2回試験では出ないと思います。

 なお以下の解説は,刑事弁護の基礎知識によるところが大きいです(これがあれば2回試験レベルでは白表紙は不要です)。

想定弁論対策

答案構成

 基本的に

  1. 結論
  2. 理由
  3. まとめ

 の3部構成で書くのが無難です。

 通常刑弁の解答には枚数指定(例:15枚程度)があり,変に細かい構成にしても見出しが増えて行数を無駄に使ってしまうだけです。

記録の検討方法

 刑弁で最も重要なルールは,

  • 被告人の言い分はすべて真実
  • 被告人の言い分のとおりに弁護する

 です。

 このルールを守らないと低評価(2回試験ならほぼ不合格)は免れませんが,逆に考えると,被告人が起案の方針を示してくれるということであり,刑裁に比べると非常に楽です。

 また,このルールがあるために,被告人は構成要件該当行為自体をやっていないのか,構成要件該当行為はしたけれども正当防衛なのかなど,真実のストーリーをすべて教えてくれます。

 そこで,刑弁の記録は

  • まず公訴事実を読んで,罪名と公訴事実を確認する
  • (あれば)証明予定事実記載書を読んで,検察官の主張立証構造を把握する
  • 被告人メモ(たいてい記録の最後に綴られています)を読み,真実のストーリーを把握して,検察官の主張のうちどこを弾劾すべきか理解する
  • 弾劾対象や,弾劾に使える材料を集めることを意識しながら残りの記録を読む

 以上の順番で検討するのがよいでしょう。

弾劾

 刑事弁護では,検察官提出の証拠の中に,必ず信用性に問題があるものが入っています。こうした証拠を摘示して,信用できないことを示していく作業(弾劾)が,最大の配点項目になります。

 証拠の性質によって弾劾の方法は異なるのですが,ひとつひとつ紹介していくと膨大な量になるので,詳しい弾劾方法は別の記事に譲ります。ちなみに,分厚い白表紙を読まなくても,薄い刑事弁護の基礎知識に基本的な弾劾方法は網羅されています。

 注意すべき点は,研修所の想定弁論起案では枚数制限がある場合が多く,また細かい論点に触れても点はつきにくいので,明らかに信用性が怪しい部分に限って弾劾することです。刑事弁護は,深い知識は不要ですが,証拠(特に供述)の怪しい部分を見抜く技術が必要です。被告人の弁解や,他の証拠(例えば,現場の観察条件が悪かったことを示す捜査報告書など)を読んで,弾劾に使えそうな証拠と弾劾できそうな証拠を探しましょう。特に記録に開示証拠がある場合には,たいてい他の証拠(とくに供述)と矛盾があります。

小問対策

 司法試験をクリアした人にとって,刑事弁護の小問は難しくありません。解けない場合も,単に知らないだけで,起案の講評を聞いて覚えればよいでしょう。2回試験も,検察と異なり,基本的に講義でやったような小問しか出ないので,講義の復習をすれば十分です。

 ただし,刑事弁護で最初から良い成績を取りたいという奇特な人は,白表紙の刑事弁護実務を読んでおくとよいでしょう。接見禁止・勾留・保釈,公判前整理手続,尋問・異議のあたりがよく出るので,そこだけでも読んでおくと約立ちます。余裕がある人は,職務基本規定の刑事弁護に関する部分も読んでおくとよいでしょう。