刑事弁護起案マニュアル
傾向と対策
刑事弁護の即日起案,2回試験の傾向と対策を考えてみます。
まず,全刑事系科目に共通の傾向として,以下の分野から出題がされやすいように思います。
- 殺意
- 共同正犯(特に犯意の認識の有無)
- 財産犯(特に窃盗,強盗。刑弁では詐欺はあまり出ない)
- 正当防衛(特に急迫不正の侵害。刑弁で過剰防衛はまず出ない)
ほかに特別法違反(薬物事犯や廃棄物など)が出ることもありますが,出題との関係では,構成要件の意義等の知識は不要なので,気にしなくてよいでしょう(構成要件の定義がわからなくても,起案上は意思連絡の有無のみが争点になっているなどの配慮があります)。
以上の頻出類型の犯罪の記録をもとに,刑弁はおおむね次のような形式で出題されます。
- 公判での証拠調べを想定した弁論(想定弁論)の起案
- 手続関係の小問(保釈,証拠意見,公判前整理手続全般,尋問への異議等が多い)
- 冒頭陳述の起案
以上のうち,2回試験では想定弁論の起案がメインであり,起案の枚数としても全体の9割程度になります。そこで,主に想定弁論を対策していくことになります。
ちなみに,手続関係の小問は,研修所の講義のノートがあればなんとかなります。
冒頭陳述(たまに変化球で意見陳述とかも出ますが)の起案は,解答がフリーダムになり採点が困難になるため,2回試験では出ないと思います。
なお以下の解説は,刑事弁護の基礎知識によるところが大きいです(これがあれば2回試験レベルでは白表紙は不要です)。
想定弁論対策
答案構成
基本的に
- 結論
- 理由
- まとめ
の3部構成で書くのが無難です。
通常刑弁の解答には枚数指定(例:15枚程度)があり,変に細かい構成にしても見出しが増えて行数を無駄に使ってしまうだけです。
記録の検討方法
刑弁で最も重要なルールは,
- 被告人の言い分はすべて真実
- 被告人の言い分のとおりに弁護する
です。
このルールを守らないと低評価(2回試験ならほぼ不合格)は免れませんが,逆に考えると,被告人が起案の方針を示してくれるということであり,刑裁に比べると非常に楽です。
また,このルールがあるために,被告人は構成要件該当行為自体をやっていないのか,構成要件該当行為はしたけれども正当防衛なのかなど,真実のストーリーをすべて教えてくれます。
そこで,刑弁の記録は
- まず公訴事実を読んで,罪名と公訴事実を確認する
- (あれば)証明予定事実記載書を読んで,検察官の主張立証構造を把握する
- 被告人メモ(たいてい記録の最後に綴られています)を読み,真実のストーリーを把握して,検察官の主張のうちどこを弾劾すべきか理解する
- 弾劾対象や,弾劾に使える材料を集めることを意識しながら残りの記録を読む
以上の順番で検討するのがよいでしょう。
弾劾
刑事弁護では,検察官提出の証拠の中に,必ず信用性に問題があるものが入っています。こうした証拠を摘示して,信用できないことを示していく作業(弾劾)が,最大の配点項目になります。
証拠の性質によって弾劾の方法は異なるのですが,ひとつひとつ紹介していくと膨大な量になるので,詳しい弾劾方法は別の記事に譲ります。ちなみに,分厚い白表紙を読まなくても,薄い刑事弁護の基礎知識に基本的な弾劾方法は網羅されています。
注意すべき点は,研修所の想定弁論起案では枚数制限がある場合が多く,また細かい論点に触れても点はつきにくいので,明らかに信用性が怪しい部分に限って弾劾することです。刑事弁護は,深い知識は不要ですが,証拠(特に供述)の怪しい部分を見抜く技術が必要です。被告人の弁解や,他の証拠(例えば,現場の観察条件が悪かったことを示す捜査報告書など)を読んで,弾劾に使えそうな証拠と弾劾できそうな証拠を探しましょう。特に記録に開示証拠がある場合には,たいてい他の証拠(とくに供述)と矛盾があります。
小問対策
司法試験をクリアした人にとって,刑事弁護の小問は難しくありません。解けない場合も,単に知らないだけで,起案の講評を聞いて覚えればよいでしょう。2回試験も,検察と異なり,基本的に講義でやったような小問しか出ないので,講義の復習をすれば十分です。
ただし,刑事弁護で最初から良い成績を取りたいという奇特な人は,白表紙の刑事弁護実務を読んでおくとよいでしょう。接見禁止・勾留・保釈,公判前整理手続,尋問・異議のあたりがよく出るので,そこだけでも読んでおくと約立ちます。余裕がある人は,職務基本規定の刑事弁護に関する部分も読んでおくとよいでしょう。