刑法の基本書・演習書・判例集
2017年3月更新。
基本書
大塚裕史教授らが書いた「学者による受験対策本」。
記述は判例中心で,ひたすら裁判例から規範を抽出する。「本番で書ける知識」へのこだわりを感じるスタイルであり,学説の記載は最低限。試験対策に特化した基本書である。
知識的にはこの本を繰り返し読むだけで司法試験合格レベルに達することができるだろう。実際,短答レベルの知識もカバーしているので1冊で十分である。
特に責任,共犯,財産犯の箇所は,判例分析が実用的すぎて感動する。
なお判例中心のうえ共著なので行為無価値、結果無価値という分類はできない。
基本刑法では難しすぎるという人に。著者は刑法学会のトップランナーだが、全くの初心者でも理解できるように配慮されて記述されている。エッセンスを詰め込んだ良質な入門書。細かい論点は大胆に省略されているので効率よく全体像が学べる。一応行為無価値だが入門書のためあまり意識する必要はない。
行為無価値の教科書で最も判例通説がていねいに書いてある本はこれ。井田先生の自説は最低限に抑えられていて初学者でも安心。自分もこの本から刑法の学習をスタートさせた。個人的には、時間的に焦っていない人は、こういった基礎理論がしっかり学べる本から入って、『基本刑法』などの試験対策系基本書に流れていくというのが安牌だと思う。
司法試験・予備試験対策を強く意識した教科書。判例中心で使いやすい。改訂でなぜかボリュームが減った。回しやすくなったので受験生に配慮した改訂なのかもしれない。そこそこのボリュームでそこそこの知識を得たい人に向いている。結果無価値だが判例中心のためあまり意識する必要はない。
最低限の知識で試験を乗り切りたい人向け。条文判例を詰め込んだ感じの本。これだけ読んで司法試験に受かった人もいるらしいが、百選で最新判例さえフォローすれば要領のいい人は受かってしまうものなのかもしれない。自分には簡潔すぎて向かなかった。
行為無価値ベース。ボリュームがあって判例通説自説を基礎的な理論からていねいに解説してくれる良書。ただ自説部分は非常に難解なので,受験的には飛ばしてもOK。
著者の高橋則夫先生は司法試験考査委員経験者なのでシェアはそこそこ高い。難易度的には初学者には少しきついと思う(飛ばすべき部分がわからないから)。2冊目の基本書、あるいは『基本刑法』などが省略している理論面を補強する基本書として適している。
1冊で総論・ 各論両方に対応。結果無価値。薄い。この本の最大の価値は短答対策にある。法科大学院コアカリキュラムに沿って執筆されており、シンプルかつ要点を抑えた記述でスイスイ回せる。予備試験・司法試験前の総まとめとしても有用。
司法試験の刑法は範囲が狭く,単独でも基本書が書きやすいためか,他科目に比べて良書が多いが,とにかく薄い本を1冊読みたいならこの本をすすめる。
結果無価値。各論は山口各論と並んで結果無価値では最強の辞書である。実務でもコンメンタールに次いで参照されることが多い。論点の網羅性がすごいので安心して使える。
共著。学説の紹介がとても充実している。普通の基本書には載っていないような有力説までしっかり書いてあるのでローの予習ではお世話になった。通説の解説も厚いので論証パターン作りにも大活躍した。定期試験などで学説をある程度詰めないといけない学生はこれをメイン本にすると良い。総論の共犯部分は誰が読んでも神。神ったら神。共犯に悩んでいる人は買いましょう。
行為無価値。ひと昔前の受験生はみんなこれを読んでいたらしい。実際に収録判例数も多いし、大谷説は叩かれているほど悪い説ではないので(試験で使うは少し勇気がいるかもしれないが…)、かなり良書。ただ、分厚いわりに個々の論点は結構すっきり書かれているので対象とするレベルがわかりにくい。
行為無価値。行為無価値の刑法各論教科書を探しているなら絶対これ。ほどよいボリュームで記述もていねい、まさに理想的な教科書。論証パターンに思わず拝借したくなるようなコンパクトな文章がうれしい。自分の刑法論文の点数の6割くらいはこの本のおかげだと思う。超おすすめ。
副読本
法学教室の人気連載の書籍化。法学部生~ロー生向けに、刑法総論をより深くより実践的に解説。基本書をはるかに上回るていねいな解説。ローの予習と定期試験前には本当にお世話になった。ハイレベルな解説が繰り広げられる一方、学生がどこまで理解していればいいのかなど現実的なコメントもあるのがうれしい。ロー生は必読の書である。
判例の解説集。「山口刑法学をより深く理解する」 なんて帯に書いてあるが、山口説がどういう以前に判例解説として試験対策にも非常に有用。知らない論点を知ってる論点にすることができる神本である。理論は骨太・判例分析は精緻だが文章自体は平易なので学部生でも読んでおくべき。おすすめ。
因果関係、正当防衛、共犯など、学生の関心が高いテーマを徹底的に解説した本。上記『楽しみ方』と合わせて読んでいたが、理解を深めるのに本当に役立つ。司法試験や予備試験で問われがちな通説判例で処理しきれない部分を深めている。今後司法試験のタネ本になっていきそう。刑法を得意にするための1冊。
判例集
基本はこれで足りる。
司法試験・予備試験対策だけに絞って判例集を選ぶならこちらでもいいかもしれない。とにかく早く回せるところが良い。
演習書・問題集
豪華執筆陣による最強の演習書。解説つき。
48問という大ボリュームなので,1か月~半年単位の時間をかけて取り組むことになるが,問題は非常に良質。
解説は簡潔なので,友人とゼミを組んで取り組むのが良いだろう。
受験的には超おすすめ本。上記の刑法事例演習教材より解説はやさしい。
試験で頻出する一部の具体的な論点についてどう論証するか,どうあてはめるかという細かい部分に重点をおいた出題・解説なので,幅広い知識が手に入るわけではないが,深く狭く受験的な技術を得ることができる。別の言い方をするなら,過失犯,正当防衛,共同正犯の論点の処理が異常に得意になるための本。
かなり難しいので,受験的には事例演習教材で十分という気もする。
一応新司法試験レベルの演習書という売りらしいが,そのわりには問題の傾向が新司法試験と微妙に異なる。
新司法試験合格者の答案がついているところが売りだが,答案と本文の解説が食い違っている箇所が多く,おそらく解説した学者は答案を細かく監修していないものと思われる。
事例演習教材をやったうえで,時間の余っているハイレベルな受験生がやる本という位置付け。
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