おいでよ ほうりつがくのもり(基本書レビューblog)

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最高裁判所長官「法曹には高位法曹と特に高位じゃない法曹がいる」

 

 岡口基一判事のTwitterで知ったのですが,最高裁判所長官が,最高裁判所の公式webでなかなか攻めた発言をしたみたいですね。

 

法学部以外の方のために説明すると,法曹というのは,基本的に弁護士,裁判官,検察官を指します。たまに,学者とかを含める人もいるようですが,日本では基本的にこの三者を意味するので,あまり深く考えなくてもいいでしょう。

 

裁判所|憲法記念日を迎えるに当たって

以下に全文を引用します。

憲法記念日を迎えるに当たって

 

憲法記念日を迎えるに当たって

 

最高裁判所長官   寺田逸郎

日本国憲法施行から70周年を迎えました。憲法に沿って新たに制定され,同時に施行された裁判所法の下で発足した戦後の裁判所も70年を迎えたことになります。裁判所は,今日に至るまで,憲法の下で負託された司法権の行使として,社会に生起する紛争の解決を通じて経済の発展,社会の安定に寄与するべく努めてきました。その間,我が国社会も,それを取りまく環境も,いくつかの節目を経て変化してきましたが,今世紀に入り,その変化はさらに動きを速めているように見えます。今や,情報技術の目覚ましい発展を背景に,経済や金融など多くの事象が国境を超えて相互に作用し合う複雑な状況を呈していて,その反面で,既存の枠組みや秩序への疑念が,様々な場面で顕在化しつつあります。これに加え,近年,東日本大震災に代表される大規模な自然災害が国民生活に深刻な影響を及ぼしていることも我が国社会が抱える大きな課題です。こうした中,国民の権利を救済し,適正な法的紛争解決を通じて「法の支配」を実現することを不変の使命とする裁判所の役割はますます重みを増していると受け止めています。前世紀末から,国民の司法制度に対する期待に応えるため,司法制度改革に伴う各種の制度改正や様々な基盤の整備等が進められてきましたが,裁判所が,このような改革の成果を生かしつつ,これまで以上に,社会の多様でスピーディーな変化に対応できる柔軟性を備え,その法的ニーズに的確に応えていかなければならないという認識は,裁判所内で共通のものとなっていると考えています。
   具体的な課題としては,まず刑事裁判について,刑事訴訟法が改正され,多彩な制度が新たに導入されることとなったことから,その適切な運用が求められていることがあげられます。これから施行される証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度は,我が国にはこれまでになかった全く新しい制度ですので,どのような運用がなされるのかについて,関係者の動きを注視しつつ,柔軟な発想で,裁判官同士で議論をするなどして,施行に備える必要がありますし,取調べの録音録画制度の裁判員裁判への影響等についても検討を深めていくことが望まれます。
  近年,民事事件を中心に,社会経済や国民生活に大きな影響を与える事件が司法に持ち込まれ,裁判所の示す判断に対する社会の関心が高まりを見せていることや,家族のありようが大きく変化し,これを受けて,家庭をめぐる解決が困難な紛争が増加するとともに,その内容も深刻の度を増していることは,再三申し上げているとおりです。裁判所の審理判断の質の水準は個々の裁判官の自覚や研修などの工夫を通じて高まっていると思う一方,国民から信頼される裁判所であり続けるために,裁判の質の向上に向けて更に不断の努力を積み重ねていかなければならないことを痛感します。そのために,紛争の実体を的確に把握し,法的な視点から検討を加え,合理的な期間内に妥当な結論を導くという,司法本来の役割である紛争解決機能をより一層高めるための取組を継続的に進めて参ります。
  日本国憲法の基本理念である「法の支配」の実現は,国際的な課題でもあります。そのため,国際会議などの司法交流の場を通じて,法の支配の理念の浸透に向けた司法の役割について意見交換を重ねていくことが重要と考えています。この秋には,東京でアジア太平洋地域を中心とした高位法曹が集う,法の支配を基本理念とした国際会議が予定されています。そして,その後には,同じく東京で知的財産関係訴訟に関する国際シンポジウムが開催される予定です。このような国際的な意見交換の場を重視し,問題意識を持って関わることは,意義のあることであり,このような機会に「法の支配」の浸透が国際的にも一層の広がりを見せることを期待しているところです。
  憲法記念日を迎えるに当たり,「法の支配」の理念の重要性と裁判所に期待される役割の重さを改めて自覚し,裁判所が国民の信頼に応え続けるため力を尽くす所存です。

 

  今回問題になった部分以外にも,「関係者の動きを注視しつつ…裁判官同士で議論をするなどして」など,味わい深い部分はあるのですが,まあそれはおいておきましょう。

 

 こうして全文を読んでも,特に「高位法曹」という聞きなれない単語を使う必要はなかったように思いますね。

逆に,使う必要のないところで攻めた表現を使ってしまうところに,「高位法曹」という概念に対する並々ならぬ思い入れ,そして慣れが感じられるところですが…。

 

この「高位法曹」という単語の是非は別にして,あまりにも聞きなれない単語だったので,ちょっと調べてみました。

 

まず基本として「高位法曹」という単語でググってみたのですが,全然ヒットしませんね(韓国の法曹制度を批判するブログで,皮肉として使われていたケースはありましたが)。

 

権威主義的な響きから,なんとなく,ローマ法や教会法などの研究の分野で使われている用語なのかなと思いましたが,CiNiiで全文検索しても出てこないので,そういう基礎法学の分野で使用されている言葉というわけでもなさそうです。

 

この秋には,東京でアジア太平洋地域を中心とした高位法曹が集う,法の支配を基本理念とした国際会議が予定されています。 

悩んだ結果,この国際会議がヒントになるかと思ったのですが,私は最初,開催時期・場所とアジア太平洋地域が中心ということから,ローエイシアという会議だろうと推測していました。

LAWASIA(ローエイシア)東京大会2017

 

しかし,ローエイシアの英語版のサイトを見ても,high rankとかそういった単語は使われていません(人権問題を話し合う会議でそんなこと書いたら炎上しますからね)。

ローエイシアは,「高位法曹」の皆さんが集う会議ではなさそうです。

 

ここでは,あえて会議名を書かず,「国際会議」とした点にポイントがあります。

というのも,ローエイシア東京大会のトップページの下のほうに書いてあるのですが,

LAWASIA東京大会2017は、2017年9月18日~21日、
法の支配による大いなる飛躍~ローエイシアの軌跡とこれからの役割
Big Leap through the Rule of Law - LAWASIA Legacy and Future Role
をテーマとして、アジア・太平洋最高裁判所長官会議と同時に開催されます。

同時期に,アジア・太平洋地域最高裁判所長官会議があるんですね。確かに,日本から唯一自分だけが参加する会議を指して「高位法曹」が集まる会議だ,と書くのは,さすがに勇気がいりますから,会議名をぼかしたのも頷けます。

 

弁護士と異なり,裁判官は司法行政も行う公務員ですので,役職があり,その役職には高い低いというものがあるのかもしれません。少なくとも,最高裁判所長官は他の裁判官,他の法曹より高位だという認識なのでしょう。

ということで,やっと謎が解けました。確かに,裁判所は,同じ裁判官の間でも「上席裁判官」などの役職をつけたりしますから,裁判所的には高位低位という考え方は慣れ親しんだものなのかもしれません。

 

当否は別にして,事実として,そういった考え方も存在するのかなと思います。

 

しかし,私は基本的に法曹同士(法曹としての裁判官同士)である限り高位低位というものがあるとは思いません。司法行政を行う公務員としては上下関係があるとしても(全員がフラットに予算配分を決めたり,全体会議で人事を行ったりすれば非効率です),予算や人事といった仕事は「法曹」でなくてもできる仕事のはずで,やはり「法曹」という単語を使う以上は,専門家として法的判断をする仕事を意味するはずです。

そうすると,やはり法曹に高位低位という位階の差があるという表現は,法の専門家である法曹の中にも高位低位があり,フラットな議論はありえない,という意味を含むことになってしまいます。

 

また,国際会議という文脈で高位法曹という言葉を使うということは,「日本の最高裁判所長官は,モンゴルの(最高裁判所長官ではない)裁判官より高位の法曹である」,「韓国の最高裁判所長官は,シンガポールの弁護士や検察官より高位の法曹である」,という意味を含んでしまいます。

日本の最高裁判所長官が,国内の法曹の中で自分がいちばん高位だと発言するぶんには自由だと思うのですが(そういう考え方もあるでしょう),最高裁判所長官が集まる国際会議を指して高位法曹が集まると書いてしまうのは,そういった「他国の法曹をまとめて自分たち最高裁判所長官より低位であるとみなす」弊害もあるわけです。せっかくの東京大会なのに,日本の最高裁判所長官がオフィシャルに参加国に喧嘩を売る必要はないと思うのですが。

 

また,「高位法曹」という単語からそこまでの意味を読み取るのはおかしい,最高裁判所長官なのだから他の法曹より高位なのは当たり前じゃないか,たとえ国(司法権の管轄)をまたいでいても,ある国の最高裁判所長官は他国の法曹より高位だと一般的に言えるはずだ,という意見もありえると思います。

しかし,私のように,日本の最高裁判所長官が自分は自国や他国の法曹より高位だと発信している,という理解をする人は一定数いると思いますし,あえて「高位法曹」という単語を使って,国際的な批判を受ける必要はないと思います。

特に,「高位法曹」を英語に訳すとなると,high ranking lawyerあたりの訳語が当てられる可能性があり,海外で炎上する可能性が非常に高いのではないでしょうか。オフィシャルなwebの,しかも憲法記念日の挨拶文でそんなリスクをとる必要があるでしょうか。

 

ということで,私は高位法曹という表現(概念)の使用は辞めたほうが良いと思うのですが,非法曹・非法律家の方は,こういう概念についてどう思われるのか,気になります。

 

法服の王国――小説裁判官(上) (岩波現代文庫)

法服の王国――小説裁判官(下) (岩波現代文庫)

黒い巨塔 最高裁判所

絶望の裁判所 (講談社現代新書)

 

要件事実入門 初級者編

要件事実入門 初級者編

 

 

弁護士1年目の教科書

 主に若手の弁護士実務に役立つ本を紹介していきます。

 

企業法務のための 民事訴訟の実務解説 (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)

企業法務のための 民事訴訟の実務解説 (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)

 

  ネット上であまりおすすめされていませんが,これは非情に役に立ちます。訴訟手続の進行に合わせて実務上気をつけるべきポイントが細かく記載されています。

 ちなみに同じ著者(團道至剛弁護士)の若手弁護士のための民事裁判実務の留意点の実質的な改訂版なので,こちらは無理して買わなくてよいです。ネットだと未だにこちらが絶賛されていますが…。

 

 

若手弁護士のための 初動対応の実務 Initial Response of Practice for Young Lawyer

若手弁護士のための 初動対応の実務 Initial Response of Practice for Young Lawyer

 

  あらゆる分野の初動対応を紹介しているわけではありませんが(訴訟以外は薄い),こちらも「とりあえず何をしたらいいのか」が理解できるため,非常に役に立ちます。

 広く浅く解説されている分,広く浅く仕事がふられるタイプの事務所ではない人は,何年目でも役に立つと思います。

 

 

若手法律家のための法律相談入門

若手法律家のための法律相談入門

 

  内容としては「社会人1年目の教科書」的な一般論が多いのですが,最初のほうに書いてある法律相談でよく使う知識のリスト的な部分が有用です。その部分はPDF化してスマホタブレットでいつでも閲覧・予習できるようにしています。

 

 

改訂 事件類型別弁護士実務ハンドブック (東弁協叢書)

改訂 事件類型別弁護士実務ハンドブック (東弁協叢書)

  • 作者: 松江頼篤,近藤健太,黒澤圭子,炭本正二
  • 出版社/メーカー: ぎょうせい
  • 発売日: 2016/10/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

  少し詳しすぎて通読は厳しいのですが,辞書として手元に置いておくと安心できます。上記「初動対応」を通読してある程度頭に入れたら,日常業務ではこちらを使ったほうがいいかもしれません。

 

 

契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説

契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説

 

  企業法務系の事務所では必携ではないでしょうか。契約書のサンプルと詳細なコメントという構成になっており,まさに契約書の基本書という体裁です(有斐閣は伊達じゃない)。私は修習生時代に通読しました。普段は契約書のチェックの際に辞書的に使うことになると思いますが,仕事中にこっそり少しずつ通読していくと本当に力がつく本です。しんどいですが…。

 

 

弁護士会照会制度〔第5版〕――CD-ROM付

弁護士会照会制度〔第5版〕――CD-ROM付

 

  これは訴訟案件のある弁護士必携です。事務所に置いてあったとしても自分用に買って付箋をベタベタ貼っていきましょう。ここに金をケチるくらいなら他の本も買わなくて良いです。

民事裁判起案マニュアル

傾向と対策

2回試験&即日起案の民事裁判科目の出題は,おおむね以下のとおりです。

  • 訴訟物,その個数,併合態様を書かせる問題
  • 手続の知識問題
  • 要件事実を整理させる問題
  • 事実認定問題

訴訟物問題の対策

白表紙(特に,「新問研」)を読んだうえで,実体法(民法,商法)の知識を軽く復習しておけば十分です。

併合態様が書けるよう,民事訴訟法の教科書を復習しておくとよいと思います。

訴訟物の学習は要件事実の学習と被るので,詳細は要件事実の項で触れます。

手続の知識問題

あまり難しい問題は出ません。

薄い民事訴訟法の教科書を復習しておけば十分です。

弁論主義全般,反訴あたりが頻出なので一読しましょう。

要件事実を整理させる問題

基本的な知識については,要件事実入門という超薄い「新問研」の解説書のような本がありますので,「新問研」を読んでもよくわからない人は読むとよいでしょう。

要件事実は(司法試験レベルを超えた)実体法の深い理解を試される問題も出ますが,変に新しいものや複雑なものに手を出すよりは,新問研を読んだうえで,基本書で民法の知識を再確認しておくのが良いと思います。

ただし任官希望者は,優秀層に差をつけられないよう,修習開始前に要件事実論30講 第3版要件事実問題集〔第4版〕を1周しておくことを強くおすすめします(後者の方がレベル高い)。それ以外の人は,これらのうち1冊を2回試験前に通読すれば十分です。

事実認定問題

完全講義 民事裁判実務の基礎 入門編―要件事実・事実認定・法曹倫理が結構わかりやすいです。

任官希望者は事実認定の考え方と実務ステップアップ民事事実認定を読むのが無難だと思います。民事事実認定は刑事と異なり紛争類型が多く,紛争類型ごとに特徴があるので,大量の文献に触れておいたほうが有利です。

事実認定のパターン処理

ここからは優秀層や任官希望者には不要な話になります。

民事事実認定は次のようにパターン化できます。

  1. 4つの類型のいずれかを書く(4類型については白表紙参照)
  2. 時間の許す限り記録を読み動かし難い間接事実を「契約前」「契約当時」「契約後」の時的要素でグルーピングしながら答案構成用紙にメモ
  3. グループごと,間接事実ごとにナンバリングして,間接事実を1個ずつ「経験則」を明示して意味合い・重みを書く
  4. 「以上総合すると…である」と総合評価して結論を書く

これで間接事実を大量に拾いさえすればB未満の評価になることはまずないと思います。

ポイントは,経験則の内容や,意味合い・重みの評価は適当でもよいので(よくわからなかったら,「~があったら,~が通常である」程度でOK),とにかく大量に事実を拾うことです。事実ごとに配点があるので,大量に拾えば低評価を免れることができます。重要そうな事実を厳選したり,評価の美しさにこだわって少ししか事実を拾わないのは危険です。

また,動かし難い事実以外の事実は,思い切って捨てるのもポイントです。証明できるかどうか怪しい事実は,頑張って認定して評価しても,配点が少ない場合が多いからです。

研修所の起案に共通しますが,「評価のうまさ」に対する配点は微小だと思います。「事実を一定数あげているかどうか」で勝負が決まると考えましょう。

記録の効率良い読み方

前提として設問の順番ですが,訴訟物問題から始まり,主張(要件事実)整理問題を経て,事実認定問題は最後の設問となることが多いと思います。

まず,訴訟物問題,主張整理問題の問題文を把握し,何が問われているのか把握しましょう。

それから,期日調書を最初に読み,訴訟物の追加や「◯◯の事実は✕✕の抗弁としては主張しない」などの落とし穴がないか把握します。調書を後回しにすると,これらの落とし穴を見落とす危険があります。また,記載からなんとなく本件の訴訟物や争点の予想がつくこともあり,期日調書を最初に読むのは色々とメリットがあります。

次に,主張書面を読みます。私は,相手方の認否を記録上に◯△✕で書き込みながら読みました。ちなみに,起案の記録は最終準備書面提出前の段階のものが多く,最後に綴られている(最新の)準備書面に対する相手方の応答(認否)がないようにみえる場合がありますが,この場合はたいてい期日調書に認否が記載されています。認否が「ない(沈黙)」と思わないように注意してください。

主張書面を全部読み終わり,再度訴状(や,後から主張が追加された場合は当該部分)を確認すれば,訴訟物が推測できるはずなので,まず訴訟物だけ答案構成してしまいましょう。

次に,主張整理問題を解きます。この際の記録の読み方ですが,まず訴状と答弁書を熟読し,請求原因と抗弁だけを整理しましょう。すべての抗弁を整理しきってから,再抗弁に移るとミスが少ないです。この段階で事件の全体像がよく理解できない場合は,書証をとばして,先に尋問調書を読んでしまいましょう。研修所の記録は争いのある点に絞って尋問してくれるので(笑),何が重要なのか理解する助けになります。

また,事実認定問題にたどり着くまでは,書証は見なくてもよいと思います。

他の問題をすべて解き,事実認定問題にたどり着いたら,先程認否を書き込んだ主張書面をみて,◯のついた間接事実を答案構成用紙の「動かし難い事実リスト」に入れます。次に,△や✕のついた間接事実を確認し,書証の裏付けがあるものは同リストに入れます。次に,尋問調書を読んで,原告と被告で供述が一致する事実を探し,同リストに入れます。ここまで読めば十分です。後は一気に書きましょう。

他の科目

 

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